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ささいな日常の記録

大海嘯が起こる条件

海嘯 関係の質問にいくつか回答していて、どうしてもわからない事がありました。
フランスのドルドーニュ川の質問コメント でも書きましたが、

ポロロッカの大海嘯は、雨期で水量が多い3月なんですが、
普通の川だと水量の少ない方が高い海嘯になるような。

という点です。


英語文献をいくつか読んだ限りでは、川の水量は少ない方が高い海嘯になるようです。
ところが、Wikipediaポロロッカ では、

大潮に由来するため月に2回起こる現象であるが、3月の頃には干満差の大きさや、雨季の影響によるアマゾン川の水量の多さにより規模が大きくなる(大海嘯)。

(強調引用者)
とあります。


水量の多い方が、さかのぼろうとする潮と激しくぶつかって大きな海嘯になるのかもですが、どうもしっくり来ません。
Wikipedia 英語版の Pororoca を読んでみました。

The phenomenon is best seen in February and March.

ベストなのは2月と3月、とは書いてありますが、理由の記載はないようです。


日本語版の方の 「ポロロッカ」の変更履歴 を読んで、ようやく理由がわかりました。

2005年5月2日 (月) 07:14 (中略) (独語版の概訳)

なんと、ドイツ語版 Wikipedia の翻訳記事だったのです。
ドイツ語版の Pororoca には、英語版と同様に2月と3月がベストという記述の少し後に、

Da der Amazonas zu diesem Zeitpunkt sehr wenig Wasser führt, werden die Fluten nicht abgehalten.

という記述があります。
Google 翻訳で、独英翻訳してみると、

As the Amazon leads at this time very little water, the floods are not discouraged.

直訳すれば「この時期のアマゾンは水量が非常に少ないので、洪水は阻止されない」となり、「洪水が阻止されない」=「海嘯が大きくなる」と考えられます。
つまり、アマゾンで大海嘯が発生するのは雨期で水量が多いためではなく、逆に少ないためだった、という事のようです。


Meefla, the Pororoca Meister.


[2010年11月4日追記]
もしかすると、本編より長い追記になるかもしれません。


コメント欄での chinjuh さんの情報を受けて、調べ直してみました。
アマゾンでの3月における大海嘯は雨期で水量が多いため、という記述を探した所、LEGENDARY SURFERS: Pororoca, Brazil という記事がありました。
アマゾンの支流であるカピン川 (Capim River または Rio Capim) でポロロッカ・サーフィンをする、という記事です。

The phenomenon is most pronounced in March and April because water levels are near their highest

「この現象(海嘯)は3月と4月に最大となる。水位が最高となるためだ」
こうなると、単なる誤訳や勘違いとも思えません。
振り出しに戻る、です。


まず、「川の水量は少ない方が高い海嘯になる」の根拠をあげておきます。
インドのフグリー川 (Hooghly River) も海嘯で有名な所ですが、Wikipedia の記述によると、

The greatest mean rise of tide, about 16 feet (4.9 m), takes place in March, April or May - with a declining range during the rainy season to a mean of 10 feet (3.0 m)

「海嘯の最大高は、3月から5月の4.9メートルで、雨期には3.0メートルに低下する」ようです。
また、アマゾンの場合でも、Amazon River - Tidal bore (pororoca) によれば、

The pororoca occurs especially where depths do not exceed 7 metres (23 ft).

ポロロッカが発生するのは、特に水深が7メートルを超えない場所」だそうです。
アマゾン川は雨季と乾季の水位の差が大きい。乾季と雨季ではアマゾン川の水位は20m以上も違うところがあり からすると、雨季で水量が増えると海嘯は発生しにくくなるのでは、と考えたわけです。


では、そもそもアマゾンの3月は雨期なのか乾期なのか。
アマゾン川の流域にある マナウス の場合、マナウスの気温と降水量 のグラフからすると、3月は雨期のピークです。
マナウスがあるのは、アマゾン川の河口から約1700キロ上ったところですが、ここで雨が降れば河口での水量も上昇するでしょう。
次に、河口近くの気候を調べてみました。
さすがにアマゾンの河口近くのデータは見つからなかったので、chinjuh さんから教えていただいた記事で、アマゾン川の代わりに使われているというアマパ州のアラグァリ川 (Araguari River) です。
ここは、人力検索での回答にも使った Tidal Bore Research Society(海嘯研究会)でも Araguari Pororoca, Amapa State としてポロロッカの代表格と記述されている所です。
Amapá の記述によると、

An equatorial climate is a type of tropical climate in which there is no dry season―all months have mean precipitation values of at least 60 mm.

あれ?
乾期はなく、少なくとも60ミリの雨が一年中降る、とあります。


さらに、National Geographic NewsTsunami-Like River Tides Are Surfing's New Frontier では、

It's the tail end of the dry season on the Araguari River in the Brazilian Amazon Basin, and the water level is low.

「ブラジル、アマゾン流域のアラグァリ川では、乾期の終わりで、水位は低い」
ナショジオの記事ですし、記事中にサンディエゴ大学教授のコメントも入っていますから、いいかげんなものではないでしょう。
また、振り出しに戻る、です \(^o^)/


もうね、「アマゾン川ポロロッカ」で一くくりにしちゃうのが間違いなような気がしてきました。
場所によっては雨期と乾期があるかもですが、通年で雨が降っていて、いわゆる乾期がない所もあるでしょう。
3月の大潮に、たまさか水位の条件が一致した場所でポロロッカが発生する、と考えた方が良いかもしれません。
[追記おわり]