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ささいな日常の記録

全生活史健忘とミスチル

全生活史健忘という病気があります。
Wikipedia健忘 によれば、

発症以前の出生以来すべての自分に関する記憶が思い出せない(逆向性・全健忘)状態。自分の名前さえもわからず、「ここはどこ?私は誰?」という一般的に記憶喪失と呼ばれる状態

ですので、「記憶喪失」と言った方がわかりやすいでしょうか。


「全生活史健忘」を調べていて、興味深い症例報告の載った論文を見つけました。
全生活史健忘の意義:精神医学の立場から です。
(確か1年ほど前には、京都大学国際交流センター のサイトに PDF があって、誰でも無料で読める状態だったんですが)
この症例は、全生活史健忘になった人が、ミスチルの曲をきっかけにして過去を思い出したという、嘘のような本当の話です。


論文によると、この人は25才の男性で、3月に首都圏の大学を卒業し、4月から某大手スーパーで地方勤務となりました。
4月2日、3日と出社しましたが、2日から熱を出していたそうです。
4月4日の出社直後に、トイレで意識を失って倒れているところを発見されます。
意識は十数分後に回復しましたが、「ここはどこ?私は誰?」になってしまいました。
入院した病院にかけつけた母親に対しても、まるで見知らぬ人に接するようにしか対応できなかったそうです。


5月22日に退院し、通院しながら自宅療養をしていた所、6月上旬ごろから大学の友人や弟の夢を見るようになりましたが、本当に大学の友人なのか、あるいは本当に弟なのかは、まったく確信が持てない状態でした。
7月になって転機が訪れます。
以下、論文からの引用です。

7月5日の夜、なぜかじっとしていられない感じで眠れず、音楽を聴いていたが、朝方になっても落ち着かず、夜明け前の4時半頃、外へ散歩に出た。夢中で2時間くらい歩いた。家へ戻ったら、かけっぱなしになっていた音楽が耳に入り、何か寂しい感じがして、その時、「あ、前にもこの曲を聞いたことがある」と思ったのとほとんど同時に「あっ、オーストラリア」、と想い出した。オーストラリアで一人で住んでいて寂しくなった時のことを想い出した。涙が止まらず、30分くらい泣いていたという(大学時代約4ヶ月休学してオーストラリアへ行った経験がある)。流れていた曲は、Mr. Childrenの"Tomorrow never knows"だった。

疑り深い人のための PDF スクリーンショット


この直後から、両親や弟の事などを思い出すようになります。
しかし、中学時代や高校の始め頃の事は思い出せず、15才ごろに経験したはずの阪神大震災の事も思い出せないままだった、との事です。


まさに「事実は小説より奇なり」を地で行くようなお話ですね。
では、失われた記憶すら取り戻すパワーを持つミスチルの名曲、"Tomorrow never knows" をどうぞ。