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ささいな日常の記録

はてなポイントと資金決済法

はてな運営からのアンケート もしはてなポイント → 楽天スーパーポイントへの交換が停止されたとして、その後も人力検索を継続して利用したいかどうか を読むと、いくつかの疑問が生じます。
ブコメ にもあるように、

  1. 法令って、どの法令?
  2. どこが抵触するの?
  3. 楽天スーパーポイントがダメなら、Amazon ギフト券は?

は、誰でも気になる所でしょう。
ネットで調べる事ができる情報だけで正解を出すのは難しいのですが、現時点での私の分析を書いてみます。
私は法律の専門家ではないので、間違っている可能性もある事をあらかじめお断りしておきます。


長文になりますので、結論を先に書いておきましょう。

  1. 法令って、どの法令? → 資金決済法でしょう。
  2. どこが抵触するの? → 「交換」という形態が問題なのだと思われます。
  3. 楽天スーパーポイントがダメなら、Amazon ギフト券は? → 恐らく大丈夫。


まず、「どの法令?」ですが、これは今年の4月1日から施行された「資金決済法」の可能性が高いでしょう。
「資金決済法(資金決済に関する法律)」は、基本的には規制緩和と消費者保護のための法律です。
規制緩和の方は、今まで銀行だけに認められてきた送金などの為替取引が、少額であれば登録業者でも可能になる、という点です。(第三章 資金移動)
これは、はてなポイントとは直接の関係はないでしょう。
ポイント送信で関連する可能性はありますが、本題からそれるので省略)
問題は消費者保護の方です。
「第二章 前払式支払手段」によって、今までプリペイドカードとカード型電子マネーSuica とか Edy とか)だけに行なわれていた規制が、「サーバ管理型の電子マネー」にも行なわれるようになったのです。
IT事業と資金決済法[2]電子マネーに関連する法律を整理する(1) の表「プリカ法と資金決済法の主な相違点」をご参照ください。
この影響は、ネット上の各所に現れています。
オンラインゲームで仮想通貨を使用している所を見ればわかりますが、対応は二つしかありません。

  1. 「前払式支払手段発行者」として登録してポイント未使用額総額の半分を供託金として納める。(破綻対策の消費者保護)
  2. ポイントの有効期限を半年にして、第四条の二の適用除外によりそのまま継続する。

1. の手段を取ったのが、例えばオンライン麻雀の Maru-Jan です。
資金決済法施行に伴う重要なお知らせ に情報開示されているように、これは小規模事業者にとっては重い負担です。
So-net のような大手でさえ、Livly Island の仮想通貨ヤミーにおいて 有効期限設定 という方法で供託金を回避した、という点を見てもわかるでしょう。
振り返って見れば、昨年10月の時点で、長期間ご利用のないはてなポイントの取り扱いについて 失効扱いにしたのも、資金決済法の施行を見越しての布石だったのかもしれません。
今後、「未使用残高」の基準日となる9月30日(第三条の2)までの間に、はてなポイントの有効期限が一年から半年に変更されたとしても、私は驚きません。


さて、今回の楽天スーパーポイントの件ですが、正直言って資金決済法の条文を読んでも、どこがどう抵触するのかよくわかりません。
ただ、資金決済法の成立過程を追っていくと、ヒントが得られると思われます。
一口に「ポイント」と言っても、その実体は二通りあります。
お金で買えるポイントと買えないポイントです。
ここでは、前者を「前払いポイント」、後者を「おまけポイント」とします。
表にしてみましょう。

購入 代表例 資金決済法
前払いポイント 可能 はてなポイントモリタポ 前払式支払手段
おまけポイント 不能 楽天スーパーポイント、家電量販店のポイント 適用外


資金決済法の適用を受けるのは「前払いポイント」であり、「おまけポイント」の方は適用を受けていません。
この点について詳しく記述しているのが、アンダーソン・毛利・友常法律事務所資金決済に関する法律の制定について (PDF) です。
5ページ目の「4. 今回規制が見送られた事項」の「4.1. ポイント・サービスに対する法規制」には、

電子マネーにおけるポイント・サービスについては、ポイントが財・サービスの利用に充てられる点で、前払式支払手段と同様の機能を有することから、消費者保護の観点から規制すべきとの議論がある。これに対しては、ポイントは、基本的に、景品・おまけであり、消費者保護を図る必要はないという強い反対意見がある。

とあります。
楽天の場合を考えてみましょう。
楽天は、楽天スーパーポイントと楽天キャッシュ の二本立てで、ポイントと電子マネーを発行しています。
資金決済法で楽天キャッシュの方が法規制を受けるのは仕方ないとして(参考:【楽天キャッシュ】資金決済法施行に伴うサービス内容一部変更のご案内)、これが楽天スーパーポイントの方まで拡大されると大変な事になります。
楽天キャッシュの分に加えて、未使用の楽天スーパーポイント残高の半分を供託しなければなりません。
これだけは死守しなければならないので、三木谷社長みずから 金融審議会に出向いて説明 したのでしょう。


これを踏まえて、はてなポイント楽天スーパーポイントとの交換を考えてみると、現金でおまけを買っている、という状態である事がわかります。
「おまけポイント」はあくまでも景品・おまけである、という主張が成立しなくなってしまうのです。
楽天スーパーポイント提携サービス を見ると、「前払いポイント」から楽天スーパーポイントに交換できた WebMoney とマグスルのリンデンドルセカンドライフの仮想通貨)は、3月25日にすでに撤収しています。
WebMoney の方は サービス終了のお知らせ に理由が明記されていませんが、マグスルの方は 資金決済法の関係により終了 と書かれています。
マグスルは セカンドライフ事業を縮小 したので、資金決済法は口実であるという見方も考えましたが、「リンデンドル販売につきましては、従来通り継続」なので撤収する理由が見当りません。
(余談になりますが、上記ページ後半のマグスル社長による「私個人の思い」が興味深かったです)


この見方が正しければ、はてなポイントAmazon ギフト券との交換は、Amazon ギフト券を現金で購入 したのと同じであり、資金決済法に照らしても問題はない事になります。
冒頭に述べたアンケートで、Amazon ギフト券についての言及がないのは、運営の書き忘れではないでしょう。
個人的には、Amazon ギフト券もダメになったら人力検索の利用頻度は激減すると思います。
いずれにせよ、はてなが「前払式支払手段発行者」として届出書を内閣総理大臣(!)に提出するかどうか、今後の動向が気になるところです。



[同日追記]
ブコメ で「楽天にとっては問題でもはてな側は大丈夫なのでは?」というご指摘がありました。
未確定要素が多いので断言はできませんが、こんなストーリーはいかがでしょう。


2010年10月某日、前払式支払手段発行者となったはてな金融庁からの監査が入った。
金融庁はてなポイントでは何が購入できるんですか?」
はてな「ダイアリーPLUS などのオプションサービスです。あとカラースターボックスとか……」
金融庁「で、楽天スーパーポイントとの交換もできるようですが」
はてな「できます」
金融庁はてなさんは交換時に手数料を徴収してますね」
はてな「交換金額の5%です」
金融庁楽天さんの見解では、スーパーポイントはおまけ・景品だそうですが、はてなさんは手数料を取った上でおまけを販売している、と理解してよろしいでしょうか?」
はてな「……」
金融庁「業務改善命令や登録の取消しができることはご存知ですね?」


資金決済法の規制を逃れた「おまけポイント」との交換は、正規の発行者にとってリスキーなのではないでしょうか。
[追記おわり]



[2010年7月1日追記]
はてなから、交換停止に関する公式アナウンスがありました。
はてなポイントから楽天スーパーポイントへの交換サービス停止について


やはり法令は資金決済法であり、Amazon ギフト券との交換は存続されました。
ただし、「どこが抵触するの?」に対する説明は、現時点では見当らないようです。
[追記おわり]



[2010年10月25日追記]
はてなも「前払式支払手段発行者」として金融庁に登録したようです。
はてなのトップページ からは直接のリンクがなかったので見逃していましたが、会社情報 - はてな のフッター部にリンクができていました。
会社情報:資金決済に関する法律に基づく表示 で、はてなポイントが「前払式支払手段」となっている事がおわかりいただけると思います。
[追記おわり]