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ささいな日常の記録

Google Answers あれこれ - Part 2. リサーチャー

Part 1 の続きです。


Google Answers の最大の特徴は、回答者がリサーチャーと呼ばれる専任回答者である、という事でした。
これは回答の質を高めようというポリシーから来るもので、その人数は500人から800人にのぼります。
リサーチャーになるためには Google に認定されなければならないわけですが、その選考方法が気になっていました。
元リサーチャーで librarian.net の Jessamyn West 女史が書いた Information for Sale: My Experience With Google Answers(情報売ります:Google Answers での経験)などから、リサーチャーについてまとめてみます。


Jessamyn West 女史が Google Answers を知ったのは、まだベータ版だった時期でした。
データベースにある質問数は300から400しかなく、検索機能も実装されていなかったそうです。
リサーチャーになる過程は3つ。Google に自分をアピールし、質問に答え、契約書にサインする、でした。
彼女は、自分の図書館での経験と M.Lib.(Master of Library Science:図書館学修士)の学位を強調した手紙を Google に送りました。
1週間ほどで、Google から質問が送られてきました。
質問の多くは基本的なものでしたが、中にはひねりの入ったものもあったそうです。
例えば、「エルビス・プレスリーが出演した映画の中で、エルビスが作中で死ぬものをあげよ」です。
作中で明らかに死んでいるのは一つだけでしたが、もう一つの作品のラストで死を暗示しているものがあるそうです。
彼女は質問への回答を返送し、再度送られてきた契約書にサインしたものを電子メールで送って、リサーチャーのログイン権限を得ました。


さて、Part 1 でも書いたように、Google Answers は一問一答形式でした。
リサーチャーになると、未回答の質問の中から選んだものをロックすることができるようになります。
ロックされた質問はそのリサーチャー以外には回答できません。
ロックしたままにしておける時間は、Wikipedia によると報酬が100ドル未満の質問では4時間、100ドル以上のものでは8時間でした。
(ベータ版の頃は最初1時間だったものが2時間に延長された、とあるので、最終的にこうなったようです。また、少なくともベータ版ではロックの延長も可能だったようです)
最初の内は、質問数に比してリサーチャーの数が少なかったので、質問のリストを眺めて選ぶ余裕があったそうです。
ところが、リサーチャーの人数が増えるに従って、専門分野の質問を選ぶどころではなくなり、未ロックの質問を見つけてとりあえずロックしておき、後でゆっくり質問を読む、というロック合戦状態になってしまいました。
一度にロックできる質問は二つまでとなっていましたが、システムの穴を見つけたのか多数の質問をロックするリサーチャーや、ボットを走らせて質問をロックさせるリサーチャーも出現したそうです。
Google と契約しているとは言っても固定給が支払われるわけではないので、より多くの報酬を稼ぐためには何でもする、というリサーチャーがいたわけですね。


Jessamyn West 女史が指摘している問題点の一つは、リサーチャーは回答で身分を明かすような言及をしてはいけない、というものです。
彼女は図書館学の学位を持っているので、それを記述できれば彼女のリサーチが経験に裏打ちされたものである、という証拠になった筈です。
ところが、記述が禁止されているので、質問者は回答の文章だけで判断せざるを得ず、充分なリサーチをしたにも関わらず、星5つの評価のうち星1つしかもらえなかった事があるそうです。


また、返金システムの弊害も指摘されています。
稼働当初は、質問者が回答に満足せず返金を要求した場合でも、リサーチャーには報酬が支払われていました。
途中から、一定時間内の返金要求があった場合、リサーチャーへ報酬が支払われなくなったそうです。
自然と回答者は、難問を敬遠して簡単な質問を選ぶようになりました。
難問の方が調査に時間もかかり、質問者を満足させられる可能性が低いからです。
こうなると、何のために選抜試験までして専任のリサーチャーを作ったのかわからなくなってしまいます。


最後に、報酬の最高額が200ドルの75%で150ドルという Google Answers でしたが、リサーチャーになっても、それだけで生活できたわけではないようです。
同じくリサーチャーだった、微生物学者の David Sarokin 氏による An Insider's View of Google Answers も、リサーチャーから見た Google Answers の記録ですが、「リサーチャーは私にとってベストな仕事だ」と述べた後の締めの言葉はこうです。

Now ... if only I could make a living!

「そう……これで生活することさえできれば!」




Google Answers あれこれ

  1. 人力検索との比較
  2. リサーチャー
  3. リサーチャー訓練マニュアル
  4. 「1ガロンの石油に恐竜は何匹いるのか」