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ささいな日常の記録

テキサスの「涙を流す木」

涙を流す木を探しています。(question:1266328728) の回答を探していて見つけた、1966年9月16日付の The Crying Tree という Time の記事。
私の回答への chinjuh さんのコメントでも、これを紹介するという条件付きのようですので、ざくっと訳してみます。
翻訳権の問題がちょっと心配ではありますが、Time がいまさら1966年の記事を日本語訳するとは考えにくいですし。




涙を流す木


テキサス州ラ・フェリア (La Feria) に住むサム・モース (Sam Morse) の庭には7本のアカシアの木があった。何の変哲もない木だったが、ある日を境に、そのうちの一本が「神の木」となり、近在のメキシコ系アメリカ人にとって尊敬と畏怖の対象になったのだ。7月中旬の事、高さ10mのアカシアの7mほどにある枝の節穴から、紅茶のような色をした「水」が流れ出してきたのである。メキシコ系アメリカ人たちの目には、それが伝説の「涙を流す木」である事は明らかだった。彼らは木に触れ、神秘的な液体を体にこすり付け、さらにそれを飲みさえした。


アカシアの水による奇跡的な治療効果の噂は、いや応なく広まった。盲目の女性がアカシアの液体を目に注いだところ視力が回復した。子供の顔にあった皮膚潰瘍が、液体をかけただけで消えた。関節痛と肺うっ血が液体を飲んで治った。モースの家を訪れる人は増えて行き、遠くはサンアントニオや、メキシコのモンテレーから来た人までいた。


入場料50セント。押し寄せる群衆をコントロールし、自分の不便への代償とするため、モースは木の周囲に2mの金網フェンスを作り、2人の門番を雇った。50セントの入場料を払えば、魔法のアカシアに触れたり、その液体をボトルに入れて持ち帰る事ができる。近くのハーリンゲン (Harlingen) から来た樹医のグローバー・スミス (Grover Smith) は、好奇心を押さえきれず、モースの目を盗んで木に登って調べた。地元紙に掲載された彼のコメントは、昆虫が古い節穴から木の中に穴を掘っていて、木から「出血」している、といういささか拍子抜けするものだった。スミスが強固に主張したのは、それは水ではなく、木から流れ出る樹液である、という事だった。


この懐疑的な見方は、ヒューストンから来た植物学者のロバート・バインズ (Robert Vines) によっても裏付けられた。彼の発言によれば、「サム・モースの木は、普通の Leucaena pulverulenta、つまりアカシアですな。この種の木で樹皮が破壊されると、木の内圧によって導管内の樹液が開口部から出てくるのです」


これら専門家の証言と、先月の末に突然流出が止まったという事実にもかかわらず、リオグランデバレーの住人たちはラ・フェリアを訪れ続け、モースのアカシアの「奇跡」を体験しようとした。レイバー・デー(訳注:9月の第1月曜日)の週末だけでも、金網フェンスの中に入った人数は1500人を数えた。科学を冷笑し、目で見た奇跡は信じるというモースは、木の周囲に敷石を敷き、待ち行列に並ぶ人たちが強力なテキサスの太陽にやられないように日除けを作る計画を立てた。当面の所、彼は忍耐強く待ち続けている。彼の気前のいいアカシアが、もう一度泣くのを。




「サム・モースの涙を流す木が今もあるのかどうか調べてください」という質問を立ててみようかとも思いましたが、自分で調べたらあっさり回答がわかりました。
Google Books の The Hard-to-Believe-but-True! Book of Texas History, Mystery, Trivia, Legend(不思議だが本当だ!テキサスの歴史・ミステリー・トリビア・伝説の本、とでも訳しますか。1990年発行)によれば、この木はすでに枯れているそうです。
「サムの家で泣いているのは、今やサムひとりだけ」というオチでした。


あと、メキシコにある「涙を流す木」の伝承、というのも興味深い所ではあります。
マヤの世界樹あたりに通底するような気もしますが、ご存知の方は是非ご教示を。